ついにオーディオアンプを作ってしまった。しかも真空管である。
例の如くきっかけはすでに忘却の彼方であるが、「超三極管接続」という特殊な回路のアンプがえらくいい音を出すらしいという情報をネットで見るにつけ気にはなっていた。その「ウズウズ」が飽和状態になってきたところで一気に作ってしまったというところだ。
とはいえ部品手配開始から音出しまで2ヶ月近くかかっていると思う。まぁ初めての経験だからしょうがない。
超三極管接続というとかなり複雑な回路に聞こえるが、実は回路そのものは非常にシンプルなのもである。いろいろなサイトで情報を仕入れ、ダイオード整流/FET初段(2SK30A)とした。トランスはすべてお手頃価格の割に評判が良い東栄変圧器を選択。出力トランスはシンプルにしたかったのでシングルに。その代りよくあるT-850より余裕のありそうなT-1200にした。まぁ気分の問題です。コンデンサはまともに買うとすげー高いので、若松で400V560μFの特価品を2本購入。シャシはリードのP-11。ちょっと大きめだけど初めてなので余裕をみた。
肝心の6BM8真空管はエレハモにしたかったんだけど、ラジオデパートでほかの部品と一緒にTRONALを購入。単なるものぐさなだけである。
# それにしてもラジオデパートや高架下のラジオ会館、ラジオセンターなどは何度行っても「でーぷやなぁ~...(溜息」の世界である。
まずはシャシの上に主だった部品を並べて配置を考え、必要な穴をあける加工である。美しい配置もさることながら、内部の配線も考慮しなければいけない。バランスがいいと思っても、入力ピンの近くに平滑コンデンサがあったりするのはさすがにヤバい。結局先人達の配置を参考にごく普通の配置に落ち着いた。加工に関しては卓上ボール盤もドレメルルーターもリーマーもやすりも所有していたので苦労はさほどなく完了。東栄トランスは四角い大穴を開けなくて済むので楽なものである。
加工をしながらスペース的余裕のあるシャシを見ているうちに、ふと思いつきでヘッドホンジャックとスピーカー2系統切り替えも欲しくなった。はっきり言って邪道であろうが、便利さには代えられない。結局1段4回路3接点のロータリースイッチを入れることにする。「A/B/Off(ヘッドホン)」である。内部配線がかなり増えるのでエクステンションを使用してスイッチ自体は後方へ配置した。余計な接点を増やしておきながらこんなことに気を使うのも何なんだが、OPTトランス~スピーカー端子のケーブルにはベルデンを使用した。ヘッドホン端子にはアッテネーターとして390Ωの抵抗などをいれた。ちなみに入出力端子はすべて金メッキである。(むふふ。
電源周りの配線後にチェックしたときなかなかB電源の電圧が下がらないのに閉口し、150kΩ5Wのブリーダー抵抗を付けることにする。暫定的に280Vとすると約1.9mA流れて0.5W消費する計算になるが(あってますか?)、いつまでも電圧が残るのも危険だし。合計1120μFのコンデンサ容量も結構バカにできないものである。(もうちょっと少なくてもよかったかも....)
それ以外の配線はざっくり書いた実態配線図を元にいい加減に行ったので結構ぐちゃぐちゃである。とても写真をお見せできる状態ではないので割愛するが、一点アースだけは守るようにした。
それにしても300V近い電圧を扱うのって緊張するのね.......
すべての配線を終え一通りチェックを行った後、おごそかに真空管を差し込む。
半固定抵抗を絞った状態にしてB電源とカソード抵抗両端に2個のテスターをクリップでつなぎ、いよいよ緊張の火入れである。どきどき。
はたして煙を吹くことも焦げ臭いにおいを出すこともなく(もちろん何も爆発せず)無事に真空管に火が灯った。
カソード抵抗の両端電圧が左右とも40Vになるように半固定抵抗を調整し(1kΩだから40mAね)、一旦電源OFF。負荷がかかっているのでB電圧もほどなく落ちていく。もしかしたらブリーダー抵抗要らなかったかな?
今度は入力にSANSUI AU-9900のプリアウトを接続し、テスト用スピーカーを繋ぎ、再び電源ON。しょぼいスピーカーから「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の音がほとばしり出てきたときは結構感激しました。なんかいい音なんじゃない?
そしていよいよスピーカーをメインのSP-3005に繋ぎなおしてみると・・・・
何といえば良いんでしょう。。。 一言でいえば、「生々しくて、聴かせる音」。
コルトレーンの『A Love Supreme (Live)』の2トラック目のベースソロなどは、まるで目の前でJimmy Garrisonがアップライトベースと戯れているかのようなリアルさで、思わずハッとしてしまうほどである(ちと大袈裟かな?)。もちろんコルトレーンのサックスの音色も艶やかで絶品だ。アルバム『Blue Train』のジェットコースターのように上下する旋律も見事に聴かせてくれた。
映画『Crossroads』のサウンドトラックアルバムでは、「Somebody's Callin' My Name」の男声コーラスは鳥肌もの。そしてライクーダーによるスライド・ソロギター「Feelin' Bad Blues」では、黒人の老ブルーズマンのウィリーがランニングシャツ一枚でグラスを傾けるシーンが浮かんでくるようだ。
Lots of towns... Lots of songs... Lots of women...
Good times... Bad times...
Only thing I wanted anyone to say is...
'He could really play... He was good'.
他にもキャロル・キングやエミルー・ハリスなどの女性ボーカルも良いし、試しに聞いてみたTOTOの「ロザーナ」ではAU-9900よりずっとタイトでパンチのあるビートを聴かせてくれる。真空管ということでなんとなく「まるい音」というイメージがあったのでちょっと意外だが、立ち上がりも非常にいいのかもしれない。
ちなみにこの音はヘッドホンで聴いても健在だ。大きめの平滑コンデンサが幸いしたかハムノイズも全く聞こえてこない。
もちろんほんの数ワットしかないシングルアンプだからいい気になってボリュームを上げすぎると歪んでしまうのだが(この辺は要調整箇所である)、少なくとも一般的な住宅地の部屋で常識的+αまでの音量で音楽を楽しむ分には全く不足は感じない。
「素人が初めて作るアンプだし、どうせノイズやなんかでそれほど使い物にはならないだろう」程度のノリで作ってみたものの、なかなかどうして、実はものすごくいい出来なのではないかと思う。少なくともしばらくはトランジスタのアンプに戻る気は起きないだろう。
悪い性癖で「次は2A3あたりで・・・」なんて思ったりするが、まずはこいつを仕上げてからだ。
ローズウッド系で木目を生かしたフロントパネルでも作ってみようか? とか、トランスの高圧端子がむき出しで危険なのでパンチングメタルでカバー作らないかんなぁ、とか考えながら、夜中に部屋の照明を暗めにして真空管にほんのり灯る明かりを見ながら聴く沢田聖子の『坂道の少女』は実に萌えるのである。(w
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