カレンダー

« 2010年9月123456789101112131415161718192021222324252627282930

あるカメラマンの死

山岳写真家の磯貝猛さんが亡くなった。

氏は、僕が25年前に北穂高岳山頂の山小屋「北穂高小屋」で住み込みアルバイトをしていたときに何度か泊りに来られた。当時はまだ山本和雄氏(故人)の助手をやっておられたころで、その時もお二人で重い機材を背負っていたのを覚えている。

今はどうか知らないが、当時は名のある山岳写真家が小屋に来ると、お客様としてというより身内のような待遇をするのが普通だった。食事も従業員と一緒。精いっぱい豪華な料理と酒が食卓に並び、山や写真の話で大いに盛り上がり本当に楽しいひと時だった。天気が写真向きではない間は連泊され、小屋の仕事を手伝って頂くこともあった。そして夜はもちろん毎晩酒盛りである。師匠の山本和雄氏がこれまた酒豪だった。そこに同じく写真家の内田良平氏などが合流することもあったが、今思えば豪華な顔ぶれだ。

ある雨の日の夕方、宿泊客用の食事の下ごしらえがひと段落して一服していた時、突然天候が変わり見事な夕焼けと虹が窓の外に広がった。僕は自分のばかちょんカメラを引っ掴むと、エプロン姿のまま玄関に散乱している手近な靴をつっ掛けて山頂に駈け登った(小屋は山頂直下、徒歩1分なのだ)。おそらくひと夏に一度あるか無いかという、素晴らしい眺めだった。
日没までの数分、その絶景を堪能し部屋に戻ってみると....
どうやら僕が突っ掛けた靴は磯貝氏のものだったらしく「おかげで好い写真取り損ねた」と怒られた。その目は笑っていたけれど、でもたぶん半分くらいはマジだったんじゃないかと思う。

その磯貝氏が、あの北穂高岳山頂付近から滑落して亡くなった。
僕はその後しばらくして山から離れてしまったのでそんなこともすっかり忘れてしまっていたけれど、ニュースを読んであの夏の記憶が蘇った。

その夏、日航ジャンボ機が御巣鷹山に落ち、たこ八郎氏が海で溺死した。
あの夏に亡くなったすべての人と、情熱の山岳写真家、磯貝氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

- 合掌 -

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: あるカメラマンの死

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://blog.siis.jp/MT42/mt-tb.cgi/160

コメントする

このブログ記事について

このページは、が2010年8月30日 15:07に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「HASSELBLAD 500C/M(その2)」です。

次のブログ記事は「Carl Zeiss T* Biogon 21mm F2.8」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。