視覚、聴覚、触覚にこれほど訴えかけるカメラも珍しいんじゃないかと思う。
ハッセルブラッド 500C/M
1984年、スウェーデン製。
フォーカスもマニュアル、巻き上げもマニュアル。
シャッターは機械式で露出計なんて物もついてないからもちろん電池なんて必要ない。
気持ちイイほど徹底したマニュアル操作。
そんなわけだから1枚撮るにも結構時間がかかる。
構図決めて露出計で絞りとシャッター速度を決めてピントをあわせてからスライド板を引き抜き、もう一度構図とピントを確認してから息を殺してシャッターを切る。
シャッターを切った時の「がちゃ・ぽこ」というメカニカルで且つちょっと間の抜けた音に陶酔し、次の1枚に備えてクランクまわしてフィルムを巻き、シャッターをチャージする。その時のカリカリと言う音もかっちりした感触も絶品なのだ。
そしてカール・ツァイスのレンズが6cmx6cmの広大なフォーカシングスクリーンに映し出す像がまた良い。ピントがあった時の「ふわぁっ」と浮き上がってくるような感覚は、小さなアイピース越しやましてや液晶画面では決して味わえない。
正方形の画面なので縦だ横だと余計な迷いとは無縁なのだが、プリズムがないので左右は逆像になっている。
シャッターを切ってから結果を確認できるまで数日~1週間。
ポジ1枚あたりのコストは100円以上するから、シャッター1枚切るのにも自ずと気合が入る。
でもそれが「一撮入魂」って感じで清々しいのだ。
空、雲、昼寝中のネコ、樹木の肌、苔生した公園の隅、ペンキの剥げたベンチ、ブロック塀のシミ、光と影、etc...
別に何か伝えたい事があるわけじゃない。
ただ単に「写真を撮る」行為が楽しいだけなのである。
天気の良い休日にハッセルを肩から下げてのんびりと散歩しながら、そんなアリフレタ街の風景を正方形に切り取る遊びに軽くハマっている。